スーツのサイズ選び:表示のあとに、何を見るか

ドレスフォームに着せた濃紺のスーツの上着。肩線がまっすぐ乗り、衿が首もとに隙間なく沿っている

既製のスーツのサイズには、日本の規格がある。JIS L 4004:2023「成人男子用衣料のサイズ」がそれで、上着のサイズについて、この規格が引き受けているのは、着る人の身体を測るところまでである。どういう身体の人が、どの表示のものを着るのか。そこまでは決まっている。だから、表示そのものが間違っているわけではない。

ところが、試着室で実際に気になることは、その表示からは分からない。肩が乗っているか。袖が長すぎないか。丈はどこで止まっているか。規格はそこまでを定めていない。定めていないものは、表示にも出てこない。

表示が終わるところから、着た姿が決まるところまでのあいだに、何があるのか。売り場で一着ずつ合わせていたときの手順のまま、順に置いていく。

胸囲だけを測って、残りは一着ごとに確かめていた

白いシャツを着たドレスフォームの胸まわりを、無地の布テープが水平に一周している

一着のサイズを決めるとき、私が身体に当てていた巻尺は、胸のまわりに一度回るだけだった。数字が出れば、ヨーロッパの表記のどれに当たるかが決まる。決まるのはそこまでである。肩幅も、袖丈も、着丈も、ウエストの絞りも、そのあとで一着ごとに合わせに行く。

なぜ一つ測っただけで済まないのか。スーツの成り立ちに理由がある。上着は多くのパーツからできていて、パーツごとに型紙が違う。同じ表示でも、つくり手が変わればシルエットが変わり、同じつくり手でもモデルが変われば変わる。加えて、手縫いか機械縫いかという製法や、中に入れる芯地——形をつくる内側の芯——によって、着心地も見え方も別のものになる。だから一つの寸法を合わせても、他の寸法が連れ立って合ってくることがない。

シャツなら事情が違う。構成しているパーツが少ないぶん、調整を一箇所で吸収するという考え方が通用する。上着には、その考え方が持ち込めない。合わせに行くしかない場所が、はじめから複数ある。

だから体型記号は、私の手順では最初に見る数字ではなかった。念のため、この手順がどこから来ているかを書いておく。調整の効く既製品を置きながら、同時に多くのオーダーを承っていた売り場での経験である。ヨーロッパの表記は日本の規格とは別の系統で、その売り場で実際に扱っていたのは、42・44・46・48・50・52の六つだった。

規格が上着について定めているのは、着る人の身体である

JIS L 4004:2023 が既製衣料品のサイズとして定めているのは、実のところ多くない。基本身体寸法としてチェスト・ウエスト・身長の三つ。特定衣料寸法として、また下丈(パンツの股下の長さ)。それだけである。前の三つは、いずれも着る人の身体を測った数字であって、上着のでき上がり寸法ではない。四つめのまた下丈だけは性格が違い、こちらは仕上がったパンツの側を測る。上着に表示されるのは、前の三つである。

規格の表に並ぶ「94A5」のような呼び方も、この三つを一つにまとめたものである。先頭がチェスト、中央のアルファベットが体型の区分、末尾の数字が身長の区分にあたる。体型の区分は、チェストとウエストの寸法差で分けられている。十の区分があり、たとえばA体型なら差が12センチ、AB体型なら10センチ、B体型なら8センチ。差が小さいほど、胸に対して胴が太いということになる。これも身体を測った寸法どうしの差であって、上着の寸法の話ではない。

規格が引き受けているのは、そこまでである。肩幅、着丈、袖丈、身幅、股上——着た姿をかたちづくっていくこれらの寸法は、この規格のサイズ体系に入っていない。禁じられているのではない。実寸の表が添えられていることがあるのは、規格のサイズ表示とは別立てに、つくり手が自分の判断で添えている情報である。規格が数値を決めているわけではないので、つくり手ごとに揃わない。それは不備ではなく、はじめからそういう仕組みである。

同じ「JISのサイズ」でも、シャツは反対を向いている。ワイシャツのサイズを定める JIS L 4107 の附属書1 は、サイズを衣料寸法——つまり、でき上がった製品のほうを測った寸法——としている。えり回りもゆき(裄丈)も、測っているのはシャツそのものであって、着る人ではない。ワイシャツのサイズは、その前提の上に書いた記事である。上着はその逆で、表示の数字は身体を測った側にある。同じ日本産業規格の中で、上着とシャツは測っている対象が反対を向いている。二つを並べて読むときは、ここを取り違えないでほしい。

だから「AB6の肩幅は何センチですか」という問いに、一つの答えは無い。規格がそこを決めていないからである。数字が身体に正しく当たっていることと、着た姿が決まること。この二つは、別のことである。

動いていないのに皺が引かれているなら、寸法が足りていない

チャコールグレーの上着の前身頃。中ボタンを留めた状態で、生地が胸から腰まで平らに落ち、引かれた線が出ていない

表示で分かることは、ここで終わる。ここから先は、着た姿を見るしかない。スーツという一着が何を担っているかはスーツの本質に書いたが、ここで扱うのは、その一着が目の前の身体に合っているかという一点である。

私が線を引いていたのは、皺のところだった。動きによって生まれる程度の皺なら、そのまま承っていた。動いていないのに、常に引っ張られているような皺が出ているなら、薦める寸法のほうを変えた。「もっと細く」「もっとゆったり」というご希望があっても、この線を越えていれば別の寸法をお出しした。

なぜこの二つで分けられるのか。スーツの寸法は、立った姿勢で測るからである。立って止まっているときに引かれている皺は、測ったときと同じ姿勢のままで足りていないということで、寸法そのものの不足を意味する。一方、座ったり腕を動かしたりして出る皺は、測った姿勢から外れたときに現れるものであって、寸法が足りていないことの証拠にはならない。理想を言えば、立ったまま引かれる皺は許容せず、座って出る皺はほとんどが許容の範囲に入る。

ただし、ここには着る人の好みが少し混じる。ややタイトに着たい人のなかには、三つボタンの中の一つを掛けたとき、ボタンを中心に「X」の線が出ることを望む人がいる。本人が望んで出している線であれば、私はそのまま承っていた。線引きを教えることはできるが、最後の一寸は好みの側に残る。

動かせるのは、箇所ではなく方向である

裏返して仕立て台に開いた上着の脇の縫い目。縫い代が開かれ、折り返された生地の余りが見えている

買ったあとで一着を動かすとき、効いてくる問いは一つしかない。どちらの向きに動かすのか、である。

基本的に、詰めることはできる。出すことは難しい。上着でもパンツでも、極端に出すのはどの箇所でも難しい。

理由は、生地の在り処にある。出せる量は、縫い代に眠っている生地の量で決まる。その一着の中には、それ以上の生地が無い。無理に出せば縫い代が痩せ、縫い目の強度が落ちる。詰める側には、この制約がかからない。余る分を内側へ送るだけだからである。可否が箇所ではなく方向によって非対称になるのは、そのためだ。

だから試着室で確かめるべきは「直せますか」ではない。「どちらへ動かしますか」である。小さいものを大きくする前提で買わない。二着で迷ったなら、残しておきたいのは詰められる側の余りのほうである。

もっとも、方向が分かれば何でも軽く済むというわけではない。胸まわりを動かすのは難易度が高く、肩を出すのも同じく難しい。パンツの股上を浅く、あるいは深くする方向も、同じように難しい部類に入る。向きを選んでも、なお難しい場所がある、と思っておくといい。

袖丈は、肩からではなく袖から詰める

ドレスフォームの腕に付いたままの上着の袖口。袖端と平行に待ち針が打たれ、袖口の側から詰める印が付いている

では、どこなら動かしやすいのか。全体の釣り合いのなかで比較的動かしやすいのは、ウエストと袖丈の二つである。

袖丈には、やり方の指定がある。肩から詰めるのではなく、袖から詰める。袖口の側から詰めれば、動くのは長さだけで済む。

同じ「袖」でも、シャツのそれは事情が違う。ワイシャツのサイズに書いたとおり、シャツの袖であとから動かせるのは長さだけである。腕の周りと袖口の太さのほうは、既製品の直しでは動かしにくく、多くは仕立てで決めることになる。上着の袖丈は詰められる。同じ語で呼んでいるが、動かせる範囲は別のものだと思っておいたほうがいい。

既製の外へ出る境目は、二つが重なるところにある

では、どこまで動かしていいのか。私は箇所の数で決めていない。決めているのは、二つの線が重なるところである。

一つめは、シルエットのほうから来る。私が扱ってきた既製の一着は、その型紙でいちばん美しく見えるように考え抜かれていた。手を入れるほど、その設計から離れていく。パーツが多く、パーツごとに型紙が違うという構造上、直せはするが限界がある。

二つめは、費用のほうから来る。修正の箇所が増えれば、そのぶん積み上がる。一箇所ずつは小さくても、重ねるほど無視できない額になっていく。

この二つが同時に効き始める点を越えたら、その一着を追いかけるより、自分の寸法で仕立てるほうが、見た目でも費用でも理にかなう。シャツでも私は同じ考え方で勧めていた。詰める側にしか動かないという非対称は、ワイシャツのサイズが先に扱っている。境目は箇所の数で決まるのではなく、崩れと費用が重なるところで決まる。

そして、その向こう側では、寸法は自分で決められる。ダブルのスーツでは、問われているのは立場ではなく、いま袖を通している一着が身体に合っているかどうかだと書いた。寸法は変えられる。ただし、目の前の一着を動かす方向には限りがあって、その限りを越えたところからは、型紙を起こす側の話になる。

採寸どおりに仕立てても、座ると変わる

寸法を自分で決めたからといって、仕上がりがそのまま合うとは限らない。私の経験で、仕立てたのに合わないことが起きたのは、胴回り、腰回り、尻回りだった。立っているときと座っているときで、きつく感じたり、ゆるく感じたりする。数字は指定したとおりなのに、である。

主な原因は生地にある。柔らかく伸びる生地は、姿勢が変わったときの身体の動きをある程度まで吸収する。固くて伸びにくい生地は吸収しない。だから立った姿勢だけで合わせると、座った瞬間に足りなくなる。同じ寸法でも、生地が姿勢の変化を引き受けるかどうかで、着ているあいだの感覚が変わってくる。

寸法の前に生地を見ておく理由が、ここにある。生地の性質と選び方そのものはスーツは生地で決まるに書いた。季節ごとの具体はフランネルリネンにある。

なお、仕立てたものであれば、胴回り・腰回り・尻回りは、いずれも調整が効く。合わなければ再調整で戻せることが多い。私が承っていた売り場では、既製品の直しなら一週間ほど、仕立てなら仕上がりまで一ヶ月ほどが目安だった。店によって幅はあるが、その期間に体型が動いたときも、同じく再調整で足りる。

試着室では、姿勢を変えて二度見る

腕を前に出したドレスフォームの袖口。上着の袖から白いシャツのカフスがわずかに覗いている

最後に、試着室でやることを書いておく。立った姿を見たあとに、椅子に座って、腕を前に出す。

座って腕を前に出すと、袖の先の見え方が変わる。上着の袖丈が足りていなければ、シャツはカフスだけでなく、袖地まで出てくる。逆に、上着からシャツがまったく見えないのも釣り合いを欠く。どちらも、腕を下ろして立っているあいだには、ここまではっきりとは出てこない。

立った姿では全身が出る。そこに出ているのは寸法だけではなく、姿勢も一緒に出ている。正しい姿勢と正しい寸法は、片方だけでは成立しない。背中が丸まっていれば、寸法がどれだけ合っていても上着の釣り合いは乱れるし、寸法が合っていなければ、姿勢を正したところでその乱れは戻らない。

なぜ二度見るのか。立位は、この服を測った姿勢である。座位は、測っていない姿勢である。片方だけを見れば、その姿勢でしか起きないことを取りこぼす。だから姿勢を切り替えて、二度見る。

まとめ:表示で決まるのは出発点で、着姿は鏡の前で決まる

まず持ち帰ってほしいのは、一つの動作である。鏡の前で、動かずに止まってみる。そのとき引かれている皺があるかどうか。これだけが、表示では分からなかったことを教えてくれる。

止まった姿がいちばん多くを語るのは、スーツが立った姿勢で測られているからである。動いて出る皺は、測った姿勢から外れただけで、多くは寸法の不足ではない。

そして、動かすほど、設計からの隔たりと費用は同時に増えていく。二つが重なる点を越えたら、目の前の一着を追うのをやめて、寸法を指定する側へ移る。表示が引き受けているのは出発点までである。その先を決めるのは、鏡の前に立った自分の姿のほうだ。

纏う自信が、勝負を制する。

よくある質問

肩幅が少し大きいのですが、詰められますか?

詰める方向であれば、できることが多いです。肩も同じで、難しいのは出すほうです。出せる量は縫い代に残っている生地の量で決まっていて、出しすぎると縫い目の強度が落ちます。ですから、直せるかどうかを箇所の名前で判断せず、どちらの向きに動かすのかで判断してください。二着で迷っているのなら、詰めれば済むほうを選ぶのが確実です。

スーツは何箇所まで直していいものですか?

箇所の数では決めていません。修正を重ねるほど、その一着が本来もっていたシルエットから離れていきます。同時に費用も積み上がります。二つがそろって効きはじめたら、既製品を追いかけるより、自分の寸法で仕立てに回るほうが、仕上がりの面でも費用の面でも理にかなうという判断になります。数で線を引いてしまうと、動かしやすい箇所と動かしにくい箇所の違いが見えなくなります。

試着室で、合っているかどうかをどう確かめればよいですか?

確かめるのは、姿勢を変えたときに出てくる差です。止まって立った姿で見るのは、引っ張られている皺が出ているかどうか。椅子に座って腕を前に出した姿で見るのは、上着の袖口からシャツがどれだけ出ているかです。二つとも通ってはじめて、その一着は身体に合っていることになります。

サイズ表にある A5・AB6 のような記号は、何の役に立ちますか?

棚を絞る出発点としては役に立ちます。仕上がりまでは決めません。日本産業規格 JIS L 4004:2023 が既製衣料品のサイズとして定めているのは、チェスト・ウエスト・身長という身体の寸法と、仕上がったパンツを測るまた下丈だけです。肩幅・着丈・袖丈・身幅は、この規格のサイズ体系に入っていません。ですから同じ記号でも、つくり手やモデルが変われば仕上がりは変わります。記号が身体に当たっていることと、着た姿が決まることは別のことだとお考えください。

採寸して仕立てたのに、座るときついのはなぜですか?

主な原因は生地です。固くて伸びにくい生地は姿勢の変化を吸収しないため、立った姿勢だけで合わせると、座ったときに足りなくなります。店の条件にもよりますが、胴回り・腰回り・尻回りは調整が効きますので、受け取ったその場で座ってみて、きつければ再調整を申し出てください。仕上がりまでの期間に体型が変わってしまった場合も、同じように再調整で対応できます。

出典:日本産業規格 JIS L 4004:2023「成人男子用衣料のサイズ」(既製衣料品のサイズとして規定するのは、基本身体寸法=チェスト・ウエスト・身長と、特定衣料寸法=また下丈。体型の区分は、着用者のチェストとウエストの寸法差による。基本身体寸法の三つは着用者の身体を測った寸法であり、また下丈だけは仕上がった製品を測った寸法である)/日本産業規格 JIS L 4107「一般衣料品」附属書1「ワイシャツのサイズ」(サイズを衣料寸法=でき上がった製品の寸法として表示する)

Author

Shogo Otomo

グローバル企業の上級幹部として世界基準の交渉・意思決定の場に立ちながら、自らも会社を経営し、経営判断の場に身を置く。国際的なイメージコンサルタント業界団体の知識体系を学び、長年にわたり経営者・役員・管理職・若手ビジネスパーソンの装いを支援。クラシコイタリアと縁の深いラグジュアリー・セレクトショップ出身。ブランドより素材・仕立てを重視する。