冬のスーツは、フランネルで決まる:品格をつくる一着の選び方

頭部のないマネキンに着せたミディアムグレーのフランネルのジャケット。3つボタン段返りと、胸ポケットの白リネンのポケットチーフ

冬になると、装いの差がはっきり開く。同じような色の、同じような形のスーツを着ているのに、一方は寒々しく見え、一方は温度を持って見える。何が違うのかと問われれば、答えは一つしかない。生地である。

結論から言えば、冬の装いに深みを与えるのはフランネルであり、その一着を選ぶ基準は素材名ではなく「重さ」である。軽いフランネルを選べば一冬で形が崩れ、十分な重さのものを選べば十年単位で付き合える。差はそこにある。

長年、経営者・役員から若手まで幅広いビジネスパーソンの装いに関わってきて、冬に印象が沈む人と、冬こそ格が上がる人がいることを何度も見てきた。この記事は、後者に回るための見方を渡すために書いた。生地そのものの見方はスーツは生地で決まるで体系立てているので、そちらと合わせて読んでいただきたい。

なぜ冬の装いは、生地で差がつくのか

冬は、素材の差が最も表に出る季節である。理由は単純で、生地が厚くなるからだ。

厚みが増せば、布は体に沿って重く垂れる。落ち感の差が夏物よりはるかに大きく出る。同じ体型の二人が並んだとき、一方の輪郭だけが静かに縦へ通って見えるのは、この重さの違いによる。

もう一つが光である。冬の室内は照明が強く、屋外は日が低い。どちらも、生地の表面が光をどう返すかを容赦なく暴く。薄く硬い生地は光を鋭く弾いて平板なテカリになり、密度のある生地は光を奥へ吸い込んでから静かに返す。離れた距離から相手に届いているのは、色ではなく、この光の返り方である。

だから冬は、装いで差をつけやすい季節でもある。夏は誰もが軽い生地を着るしかなく、選択の幅が狭い。冬は幅が広い。広いということは、知っている人が有利だということだ。

フランネルとは何か——表情をつくっているのは、起毛ではない

グレーのフランネル生地表面のマクロ写真。起毛した細かな毛羽が立ち、濃淡の異なるグレーが混ざる杢の奥行きが見える

フランネルは、やわらかく起毛した表面を持つ毛織物である。多くの解説はここで止まるが、実はこの説明は結果を述べているにすぎない。

あの表情をつくっている工程は、縮絨(しゅくじゅう)という。織り上がった布に水分と熱と圧力を加え、繊維同士を絡ませて密度を上げる仕上げのことだ。英語ではミリングと呼ばれる。英国の紳士服専門メディア『パーマネントスタイル』(サイモン・クロンプトン氏主宰)も、2017年の「ザ・ガイド・トゥ・フランネル」で、フランネルを定義しているのは織り方でも糸でもなく、この縮絨の工程だと明確に述べている。縮絨によって組織が締まり、そこへ起毛をかけることで、あの霞んだような柔らかい表面が生まれる。

つまりフランネルとは、特定の織り方の名前ではなく、仕上げの名前である。ここを掴んでおくと、後の判断がすべて楽になる。

歴史も知っておくと見え方が変わる。フランネルは16世紀から17世紀にかけて、英国ウェールズで織られはじめた毛織物とされる。中部ウェールズのモンゴメリーシャー、なかでもニュータウンは、かつてウェールズ・フランネル産業の中心地として知られた。語源についてはウェールズ語で羊毛を意味する「グラネン(gwlanen)」に由来するという説が広く紹介されているが、音の変化に無理があるとして、古フランス語の「フレーヌ(flaine)」由来を推す見方もあり、定説とまでは言えない。

なお、日本で「ネル」と呼ばれる生地は綿を起毛させたもので、パジャマやシーツに使われる。ウールのフランネルと、綿のネルは別物である。検索して出てくる情報の多くは後者を扱っているため、ここを混同しないだけで、手に入る知識の質が変わる。

同じフランネルに、二つの顔がある

同じグレーのフランネル生地2枚の比較。左は毛羽の厚い紡毛フランネル、右は表面が平坦で端正な梳毛フランネル

フランネルは仕上げの名前だと述べた。ということは、どんな糸で織った布にも縮絨はかけられる。ここから、性格の異なる二つのフランネルが生まれる。

紡毛(ぼうもう)フランネルは、短い繊維も混ぜてゆるく撚った糸を使う。繊維の間に空気を多く含み、ふくらみと温かみが出る。表面はぼんやりと霞み、光沢は控えめだ。フランネルらしいフランネルといえば、こちらを指す。

梳毛(そもう)フランネルは、長い繊維を櫛で梳いて揃えた糸を使う。同じ縮絨をかけても反応が異なり、表情は控えめで、より滑らかに仕上がる。細い糸が紡げるぶん軽い生地をつくれるため、薄手のフランネルはたいていこちらである。愛好家のあいだでは「これはフランネルの魅力を欠いている」と評されることも多い。糸のつくりの違いそのものについては、スーツは生地で決まるで詳しく扱っている。

選び分けの基準を示す。冬の主役として一着持つなら紡毛、秋口から長く着たいなら梳毛だ。温かみと表情が欲しいのか、端正さと軽さが欲しいのか——決めるべきはそれだけである。迷ったら紡毛でいい。フランネルにしかできないことをするのが紡毛だからだ。

重さが、この生地の寿命を決める

木製ハンガーに掛けたグレーのフランネルのパンツ。生地の重みでセンタークリースが裾までまっすぐ立っている

ここが、この記事で最も伝えたい部分である。フランネル選びの成否は、ほぼ重さで決まる。

生地の重さは目付(めつけ)と呼ばれ、一般に幅150センチ・長さ1メートルあたりのグラム数で表す。英国では1ヤードあたりのオンスで語る慣習がある。実例を挙げると、フランネルの代表的な作り手である英国フォックス・ブラザーズ社は、自社の定番フランネルに14〜15オンス/400〜430グラム(幅150センチ)という数値を表示している。

この数字を、通常のスーツ生地と並べてみてほしい。スーツは生地で決まるで示したとおり、秋冬向けの一般的な生地はおよそ260〜320グラムである。フランネルは、その上をいく重さの世界にある。秋冬生地の中でも、さらに厚い部類だと理解しておいていただきたい。

なぜ重さがここまで効くのか。軽いフランネルは、着てすぐに折り目が落ちる。膝が出て、生地が体から離れ、数回袖を通しただけで形が崩れる。『パーマネントスタイル』は、軽く密度の低いフランネルは折り目を失いやすく、膝で袋のように膨らみ、濡れた状態では裂けることさえあると指摘したうえで、13オンス以上、できれば15オンス、最低でも11オンスを選ぶよう勧めている。私が見てきた範囲でも、フランネルに失望した人の多くは、生地が悪かったのではなく、軽すぎるものを選んでいる。

産地にも傾向がある。英国のフランネルは糸が太く密度が高いぶん重くなり、イタリアのものは軽く柔らかい方向に振れやすいと言われる。最初の一着なら英国製が堅い、というのはこの傾向を踏まえた助言である。

なぜ、グレーだったのか

フランネルといえばグレーである。他の色がないわけではないのに、なぜこの色が定番の座を譲らないのか。

理由の一つは、グレーのフランネルが単色ではないからだ。濃淡の異なる繊維を混ぜて色をつくる杢(もく)——英語でメランジと呼ばれる手法が使われることが多く、近づくと無数の色の粒が見える。だから平板にならない。単色のグレーが冷たく見えるのに対し、杢のグレーは奥行きを持つ。冬の強い照明の下で沈まないのは、この構造による。

もう一つは、文化的な蓄積である。1955年、スローン・ウィルソンは『The Man in the Gray Flannel Suit』という小説を発表した。翌1956年にはグレゴリー・ペック主演で映画化され、邦題は『灰色の服を着た男』となった。物語は、企業社会に生きる男の葛藤を描いたものであり、グレーフランネルのスーツは当時、組織に属する人間の制服の象徴として語られた。

興味深いのは、その象徴性が半世紀以上を経ても生地の価値を損ねなかったことだ。画一性の記号として使われた素材が、いまなお冬の装いの頂点にある。理由は単純で、実際に良いからである。流行や文脈がどう動いても、光の返り方と落ち感という物理は変わらない。これは、クラシックと呼ばれるものすべてに共通する性質でもある。

弱点を知って、はじめて使いこなせる

木製ハンガーに掛けたグレーのフランネルのジャケットと、傍らに置かれた馬毛の洋服ブラシ

フランネルには、はっきりした弱点がある。隠しても意味がないので、先に挙げる。

第一に、擦れに弱い。短い繊維を起毛させているため、摩擦で毛羽立ち、毛玉ができる。袖の内側、腰回り、鞄が当たる部分に出やすい。

第二に、膝が出やすい。重さが足りない生地ほど顕著で、座る時間が長い日ほど戻りにくい。

第三に、濡れに弱い。水を含んだ状態で擦れると生地が傷む。雨の日に選ぶ一着ではない。

そのうえで申し上げたいのは、これらが運用で相当に抑えられるということだ。方法は三つある。

連日着ないこと。一日着たら二日は休ませる。ウールが自ら形を戻す時間を与えるだけで、持ちは大きく変わる。

着用後にブラシをかけること。起毛した表面は埃を抱き込みやすく、埃は摩擦を呼び、摩擦が毛玉を生む。起毛した生地には、毛先が細かく柔らかい馬毛のブラシが向く。毛並みに沿って払うだけでいい。

シーズン中に一度、プレスに出すこと。折り目が戻れば、装いは一気に立ち直る。

手のかかる生地であることは事実である。それでも選ぶ価値があるのは、この手間の見返りが、他の生地では代えられない表情だからだ。

いつから、いつまで着るのか

着用時期は、多くの解説が「秋冬」で止まる。もう少し具体的に示す。

一般的な目安として、紡毛のフランネルは11月から2月までである。厚みと保温性がはっきり効く時期に限って使うのが、生地にとっても見え方にとっても正しい。

梳毛の薄手フランネルであれば、10月から3月まで幅を広げられる。秋口の、まだ真冬の重さは早いという時期に一枚あると重宝する。

判断に迷ったら、気温より「相手が何を着ているか」を見るといい。周囲がコートを着はじめたら紡毛の出番であり、まだ誰も着ていなければ梳毛の領域である。装いは自分だけで完結するものではなく、場との釣り合いで決まる——この原則はスーツの本質で述べたとおりだ。

最初の一着は、これを選ぶ

知識を並べても、選べなければ意味がない。一択で示す。

ミディアムグレーの無地、紡毛、14オンス(400グラム)前後、英国製。これが、最初の一着として最も外れがない組み合わせである。

色をミディアムグレーにするのは、濃すぎると重苦しく、薄すぎると軽く見えるからだ。杢の奥行きが最も生きるのもこの明度帯にある。無地を勧めるのは、フランネルの表面自体がすでに十分な表情を持っているためで、そこへ柄を足すと過剰になりやすい。

重さを14オンス前後に置くのは、これが形の保持と着心地の分岐点だからである。ここを下回ると、先に述べた膝の問題が現実になる。

そして、この一着は定番のスーツを揃えたあとに買うものであることを申し添えておく。ダークネイビーとチャコールグレーの無地——この二着がまだ手元にないなら、そちらが先だ。順序を守れば、フランネルは装いに奥行きを足す一着になる。守らなければ、着る機会の少ない一着になる。

なお、フランネルの落ち着いた表面は、スリーピースとの相性が特に良い。ベストを重ねても重くならず、むしろ静かにまとまる。足元は艶を抑えた革の内羽根の靴を合わせると、生地の質感と釣り合う。

まとめ:フランネルは、静かに温度を持つ

フランネルは、主張しない生地である。光沢で目を引くことも、柄で語ることもない。それでも、この生地を着た人は冬の部屋の中で確かに温度を持って見える。

見るべき順序は決まっている。まず縮絨が生む表情を理解し、紡毛か梳毛かで性格を決め、重さで寿命を確かめ、色はミディアムグレーの杢から入る。弱点は運用で抑え、着る時期を守る。それだけで、冬の装いは別のものになる。

冬に印象が沈む人と、冬こそ格が上がる人。その差は、才能でも予算でもなく、生地を選ぶ順序を知っているかどうかにすぎない。

纏う自信が、勝負を制する。

よくある質問

フランネルのスーツはビジネスで着られますか?

着られます。無地のミディアムグレーやネイビーであれば、通常のビジネスの場で問題になることはまずありません。ただし表面に起毛のある生地は端正な梳毛のスーツよりわずかに柔らかい印象になるため、格式の高い式典や弔事には向かないとされています。日常の商談や会議で使う一着として考えるのが適切です。

フランネルの欠点は何ですか?

主に三つあります。起毛した表面が擦れに弱く毛羽立ちや毛玉が出やすいこと、重さの足りない生地は膝が出やすいこと、そして濡れた状態での摩擦に弱いことです。いずれも、連日着用を避ける、着用後にブラシをかける、シーズン中に一度プレスに出す、という運用でかなり抑えられます。

フランネルのスーツはいつからいつまで着られますか?

一般的な目安として、紡毛の厚手フランネルは11月から2月まで、梳毛の薄手フランネルは10月から3月までです。気温だけでなく、周囲がコートを着はじめたかどうかを目安にすると判断しやすくなります。

フランネルとネルは何が違いますか?

原料が違います。フランネルはウールを起毛させた毛織物で、スーツやパンツに使われます。ネル(コットンフランネル)は綿を起毛させた綿織物で、シャツやパジャマ、シーツに使われます。名前が似ているため情報が混在しやすい部分です。

フランネルのスーツは最初の一着に何色を選ぶべきですか?

ミディアムグレーの無地です。濃淡の異なる繊維を混ぜた杢の色目が奥行きを生み、冬の強い照明の下でも平板になりません。フランネルは表面自体に表情があるため、柄は足さないほうがまとまります。

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Author

Shogo Otomo

グローバル企業の上級幹部として世界基準の交渉・意思決定の場に立ちながら、自らも会社を経営し、経営判断の場に身を置く。国際的なイメージコンサルタント業界団体の知識体系を学び、長年にわたり経営者・役員・管理職・若手ビジネスパーソンの装いを支援。クラシコイタリアと縁の深いラグジュアリー・セレクトショップ出身。ブランドより素材・仕立てを重視する。