ダブルのスーツが似合うのは、どんな人か

ネイビー無地のダブルブレステッドスーツ。六つボタンの一つ掛けで、ピークドラペルが深いV字を描いている

ダブルのスーツを前にして、多くの人が同じところで足を止める。着てみたい。けれど、自分の年齢で早すぎないか。この立場で浮かないか。そもそも、いま着ると古く見えるのではないか。

その迷いには、はっきり答えがある。ダブルが似合うかどうかを決めているのは、年齢でも職位でもない。素材とフィットである。 私は20代の後半からダブルを着てきて、それ以外の要因が効いた場面をほとんど見ていない。

そして、フィットという言葉の中身がまた誤解されている。ダブルにおけるフィットとは、体に沿わせることではない。ゆとりを、どこにどれだけ配るかということだ。 その配分が、この服の風格をつくっている。

同じ問いが、十年以上くり返されている

ダブルについて人が抱く不安は、驚くほど変わらない。20代後半の社員が着てきたらどう見えるのか。50代でいま着るのはおかしいのか。役員になれば許されるのか。就職活動で着てもいいのか—同じ形の問いが、十年以上にわたって同じように投げかけられ続けている。

問いの形が変わらないのは、答えが本人の腑に落ちていないからだ。

似合う体型を挙げた解説なら、すでにいくつもある。高身長なら縦の線が出る、痩せているなら胸に厚みが出る—そう説明されても迷いが消えないのは、体型の話と、「自分がいま、この立場で着ていいのか」という問いが、別のことだからである。 前者に答えても、後者は残る。

私はこの服を長年着てきた。だからここでは、体型ではなく、着る本人が何を確かめればいいのかを書く。

答えは、この服が広く着られ始めた頃の設計図に、すでに書かれている。

ダブルは、上着だけで胴の中心を閉じる

ダブルの前身頃。左は開いた状態で重なりしろの幅が見え、右は留めた状態で胴の中心が二重の布に覆われている

まず、この服が何をしている服なのかを押さえたい。

ダブルブレステッド—日本では単に「ダブル」と呼ばれる—は、前身頃を深く重ね合わせて留めるスーツを指す。前に並ぶボタンは二列。対してシングルは前を浅く合わせ、ボタンは一列である。「ダブル」「シングル」という呼び分けは、この列の数から来ている。

見た目の違いは列の数だが、機能の違いは重なりの深さにある。

装いの格は、体の中心をどう扱うかで決まる。ジャケットの前を開けたとき、そこにはシャツとネクタイとベルトが露出する。素材も色も違うものが胴の中心で雑多に見える場所だ。スリーピース(三つ揃い)は、そこへ共布のベストを一枚入れて面を閉じる。ダブルは、同じことを上着だけでやってのける。 前身頃を深く打ち合わせ—重ね合わせ—、二重にした布そのもので胴を覆う。この重ねしろの寸法を、以下「打ち合わせ」と呼ぶ。部品を足すのではなく、上着の構造で解決する—それがこの服の設計思想である。

もう一つ、ダブルにはほぼ必ずピークドラペル—先端が上向きに尖った襟—が付く。これを「ダブルにはピークドでなければならない技術的な理由がある」と説明する記事を見かけるが、一次史料にその根拠は見当たらない。英国で職業テーラー向けに出された1897年の教本(W・D・F・ヴィンセント/W. D. F. Vincent『The Cutter’s Practical Guide』)は、シングルの上着を解説する箇所で、ラペルの折り線より外の形は「純粋に意匠の問題」であり「フィットには一切影響しない」と述べている。そしてダブルの章を読んでも、ここだけは例外だとする記述は出てこない。 技術上の必然ではなく、長く結び付いてきた慣習と考えるほうが妥当だろう。

ただし、ダブルに固有の技術的な制約はある。同じ教本は、ダブルのラペルには縫い目(接ぎ)が入らないため、そこで布を引いたり縮めたりして立体を作れないと指摘し、だから多くの裁断師(カッター)はより直線的な裁ちを選ぶ、と書いている。逃げ場が少ない。作り手にとって、ダブルはごまかしの利かない服なのである。

ゆとりは、欠点ではなく設計である

ダブルが敬遠される最大の理由は、「もたついて見える」「太って見える」という印象だろう。だがこの量感は、失敗でも時代遅れでもない。この服は、記録が残っている最初期から、ゆとりを持つように設計されていた。

先の教本には、ダブルの製図規則がはっきり残っている。打ち合わせは、製図上の胸の中心線より2インチ半(約6.4センチ)出せば十分。ただし生地が非常に厚い場合は3インチから3インチ半(約7.6〜8.9センチ)まで増やす、と。生地が重くなるほど、重なりを深く取れという指示である。

そして、こう続く。「この衣服は、近すぎるフィットにすべきでない。その性格が、相応のゆとりを要求する」—1897年の職業テーラーが、ダブルという服の性格をそう定義していた。胸まわりにどれだけゆとりを見込むかまで、具体的な数字で指定してある。ゆとりは成り行きではなく、最初から設計値だったということだ。

130年近く前の職業テーラーが、これを書いていた。オーダーを重ねて行き着いた答えが生地をたっぷり、贅沢に使うことだったので、読んだときは驚いた。切り詰めた寸法でダブルを仕立てると、この服は途端に痩せて見える。風格が抜ける。

つまり、「ダブダブに見える」という記憶の正体は、ゆとりそのものではない。ゆとりの配分を間違えた一着の記憶である。 量を減らせば解決する、という方向に出口はない。どこに残し、どこを締めるか—そこにしか答えはない。

風格をつくるのは、四つの寸法である

では、その配分をどう決めるのか。失敗と修正を重ねて絞り込んだのが、次の四つである。仕立てを頼むときは、この四点を必ず自分から指定する。

ラペルの幅は、10センチ以上を確保する

同じダブルスーツでラペル幅だけを変えた比較。左は幅の広いラペルで胸元に厚みが出て、右は細いラペルで上下の釣り合いが崩れている

過去にオーダーしたダブルで、ラペルの幅を細く指定したことがある。仕上がりを見て、すぐに失敗だと分かった。上着そのものは悪くないのに、風格だけが抜け落ちていた。

ダブルは、重なりの深さから生まれる面の広さが身上の服だ。そこへ細いラペルを載せると、上半身の情報量が上下でちぐはぐになる。ダブルでラペルが細いと、風格が下がる。 これは好みの問題ではなく、比率の問題である。目安として、10センチ以上は確保したい。

打ち合わせは、やや深めに取る

重なりを浅くすると、ラペルが描くV字が小さくなる。V字が浅いと、胸元は詰まって見える。浅い打ち合わせは、そのまま野暮ったさに直結する。

先の教本が「厚い生地なら重なりを増やせ」と書いているのは、まさにこの比率の話だ。私はやや深めを基本にしている。深く重ねることで面が広く取れ、V字にも十分な高さが出る。

着丈は、尻が半分以上隠れる長さに

近年は上着を短く仕立てるのが流行りだが、ダブルでそれをやると品格が崩れる。 尻が出てしまうからだ。

私の基準は、尻が半分以上隠れること。上半身の面が広い服なので、下に伸びる線もそれに見合った長さが要る。短い着丈は、ダブルの上半身だけを強調して全体の均衡を壊す。

ウエストは、無理のない範囲で絞る

ここまで「ゆとり」を強調してきたが、絞らないという意味ではない。絞らなければ、綺麗なシルエットにはならない。 ゆとりを配るのは面であって、輪郭ではない。

大事なのは「無理のない範囲で」という一点だ。締めすぎれば、深く重ねた前身頃が引きつって斜めのしわが走る。ダブルは重なりが深いぶん、無理な絞りが正直に表に出る。ここでも、この服はごまかしが利かない。

既製品を選ぶ場合も、見るべき四点は変わらない。試着室でラペルの幅を指三本で測り、鏡に横を向いて上着の裾が尻を半分隠しているかを確かめる。まずこの二つで、合わない一着は落とせる。

ボタンは、六つ並びの一つ掛けを

六つボタンが二列に並んだダブルの前身頃。留めるのは下段の一つだけで、ラペルの開きが縦に伸びている

寸法とは別に、配列にも触れておきたい。ダブルの定番は前に六つボタンが並ぶ形で、そのうち実際に留めるボタンの数で印象が変わる。二つ留める形が最も一般的だが、私は六つ並びで一つだけ留める形を選んでいる。

理由は先に述べたV字にある。留める位置が下がるぶんラペルの開きが縦に伸び、胸元に高さが出る。上半身の面が広いダブルでは、この縦の線が効く。

似合うかどうかは、年齢でも職位でもない

さて、最初の問いに戻る。

人が「この人には似合っていない」と感じるとき、実際に目に入っているのは、体に合っていない肩であり、痩せて見えるラペルであり、短すぎる着丈である。それを「若いのに背伸びしている」と言葉にしているだけで、見ているのは年齢ではなく寸法のほうだ。 同じ人が、寸法の合ったダブルを着た20代を見たときには、何も引っかからない。

私自身、20代の後半からずっとこの服を着てきたが、年齢的に早いと言われた記憶はない。なお、海外の会議や会食で私が見てきた範囲でも、この型は現役で機能している。

決めているのは素材とフィットであって、着る人の年齢でも職位でもない。 これが、長く着てきた私の結論である。

だから「役員になったら着よう」という順番には意味がない。逆に「若いうちは避けよう」という遠慮にも根拠がない。問うべきは自分の立場ではなく、目の前の一着の寸法が合っているかどうかだ。 そして寸法は、年齢と違って直せるが、動かせる向きには限りがあり、その線引きはスーツのサイズの見方で扱っている。

素材についても一言添えておく。ダブルは面が広く、布が多く使われる服である。だから生地の質が、シングル以上に正直に出る。安価で痩せた生地は、広い面の上でそのまま安っぽさになる。ダブルを一着仕立てるなら、生地の選び方に予算を寄せたほうがいい。

格を示すべき場で、この一着を選ぶ

ダブルは格式の高い装いである。だから私は、格を示すべき場ならためらわずに着ていく。

初対面の挨拶。重要なプレゼンテーション。式典。

そして、意外に思われるかもしれないが、謝罪の場でも私はこの一着を選ぶ。

断っておくと、謝罪の場で装いが果たすのは、こちらを良く見せることではない。相手が見ているのは、こちらがこの場をどれだけ重く受け止めているかである。装いは、言葉より先にそれを伝える。 隙のない一着を選ぶのは、相手への敬意の表明にほかならない。軽い装いで謝罪に臨むことのほうが、よほど雄弁に別のことを語ってしまう。

慶事でも私は迷いなく着ている。パーティーの場では、むしろ最も映える装いの一つだと思う。

一方で、格が高いことと、その場に合うことは同じではない。三つ揃いの記事で引いた線が、そのままここにも当てはまる。相手が明確にカジュアルな装いの場でダブルを着れば、伝わるのは敬意ではなく気詰まりだ。着るか着ないかは、自分の格ではなく相手の装いを見て決める—スーツの本質で述べた原則が、ここでも働く。

なお、弔事の装いは別の原理で決まるため、本稿では扱わない。

ベストは、合わせない

三つ揃いを好む人ほど、「ダブルにベストを足したらもっと格が上がるのでは」と考える。私はこれを勧めない。着膨れするからであり、そして着膨れした結果が見えもしないからだ。

ダブルはすでに前身頃を二重に重ねている。そこへ一枚足せば、胴に三枚が重なる。この服の風格は面の広さから生まれるのであって、厚みから生まれるのではない。しかもダブルは前を留めて着るものだと私は考えているし、留めている限りベストは外から見えない。胴の中心を閉じるという同じ仕事を、二つの部品にやらせても効果は足し算にならない。 見えない厚みだけが残る。

ついでに、私の好みを一つ。シングルの三つ揃いで、ベストのボタンだけをダブルにする—これは長く使っている手だ。上着はシングルの軽さを保ちながら、脱いだときに現れるベストが二列のボタンで胴を締める。ダブルの構造を、別の場所で借りていることになる。

最初の一着は、ネイビーの無地

ダブルスーツを横から見た全身。上着の裾が尻を半分以上隠す長さになっている

ここまでの話を、一着に落とす。

ネイビー(濃紺)の無地。六つ並びの一つ掛け。ラペルは10センチ以上。着丈は尻が半分以上隠れる長さ。打ち合わせはやや深く、ウエストは無理のない範囲で絞る。 生地は、目の詰まった上質なウールを選ぶ。合わせるのは白のシャツと、艶を抑えた内羽根の靴でいい。

ネイビーから入る理由は、この色が場所を選ばないからだ。初対面でも、プレゼンでも、謝罪でも、慶事でも、ネイビーのダブルなら外さない。柄は二着目に回していい。ダブルは重なりの分だけ布が前面に出る服で、そこに柄が乗ると、広い面と柄が互いを騒がせる。一着目は無地で、面の広さそのものを見せたほうが強い。

そして、四つの寸法を自分の言葉で言えるかどうか。仕立てを頼むときも、既製品を選ぶときも、ダブルの出来を分けるのは生地の値段ではなく、そこである。

まとめ:寸法さえ合えば、年齢はいつでもいい

ダブルが似合うかどうかは、年齢でも職位でも決まらない。決めているのは素材とフィット、なかでもゆとりをどう配るかである。

この服は、記録が残っている最初期から、ゆとりを持つように設計されていた。130年近く前の教本が「近すぎるフィットにすべきでない」と書き残しているとおりだ。その量感を風格に変えるのが、ラペルの幅、打ち合わせの深さ、着丈、ウエストの絞りという四つの寸法である。

私が20代の後半からこの服を着てこられたのは、若かったからでも、役職があったからでもない。寸法が合っていたからにすぎない。逆に言えば、寸法さえ合っていれば、年齢はいつでもいい。

十年以上くり返されてきた問いに、私はそう答える。

纏う自信が、勝負を制する。

よくある質問

ダブルのスーツは失礼になりませんか?

失礼にはなりません。ダブルは格式の高い装いであり、初対面の挨拶、プレゼンテーション、慶事のいずれでも私は迷いなく着ています。失礼に見える場合、原因は装いの型ではなく寸法にあります。ラペルが細い、着丈が短い、ウエストを締めすぎているといった不釣り合いが、そのまま不自然さとして表に出ます。

ダブルのスーツはどういう時に着るのですか?

格を示したい場面全般です。初対面の挨拶、重要な商談やプレゼンテーション、式典、慶事の招待客として。謝罪の場でも選びます。装いは言葉より先に伝わるため、隙のない一着は相手への敬意になります。一方、相手が明確にカジュアルな装いの場では重すぎることがあります。

ダブルのスーツはダサいと思われませんか?

型そのものが古びているわけではありません。この形の設計は1897年の英国のテーラー向け教本にすでに記録されており、そこには「近すぎるフィットにすべきでない」と、ゆとりを前提とする性格まで書かれています。130年近く前の教本に、いまと同じ考え方で記録されている型です。野暮に見える一着があるとすれば、それは型ではなく、ラペル幅・打ち合わせ・着丈・ウエストという四つの寸法の配分が崩れています。

シングルとダブルは何が違うのですか?

前身頃の重ね方が違います。シングルは前を浅く合わせてボタンが一列、ダブルは深く重ねてボタンが二列です。機能の面では、ダブルは重ねた前身頃そのもので胴の中心を覆います。三つ揃いがベスト一枚で行うことを、ダブルは上着の構造だけで実現している、と捉えると分かりやすいでしょう。

ダブルのスーツにベストを合わせてもよいですか?

勧めません。ダブルはすでに前身頃を二重に重ねているため、ベストを足すと胴に三枚が重なって着膨れします。加えて、前を留めて着る限り、ベストは外から見えません。胴の中心を閉じるという同じ役割の部品を重ねても、効果は足し算になりません。

Author

Shogo Otomo

グローバル企業の上級幹部として世界基準の交渉・意思決定の場に立ちながら、自らも会社を経営し、経営判断の場に身を置く。国際的なイメージコンサルタント業界団体の知識体系を学び、長年にわたり経営者・役員・管理職・若手ビジネスパーソンの装いを支援。クラシコイタリアと縁の深いラグジュアリー・セレクトショップ出身。ブランドより素材・仕立てを重視する。