夏のスーツに、リネンという答え:涼しさと品格を両立させる選び方

夏の窓辺に掛けられた、ネイビーのリネン混ジャケット。胸ポケットに白いリネンのポケットチーフをTVフォールドで差してある

夏の商談から戻ってきた自分の姿を、窓ガラスで見たことがあるだろうか。背中は張りつき、膝は伸びきり、襟は湿って崩れている。朝は完璧だったはずの一着が、午後には別のものになっている。

結論から言えば、夏の装いにリネンという選択肢はある。ただし、しわを消す方法は存在しない。選べるのは「しわの出方」だけであり、それを決めているのは生地の重さである。そしてもう一つ、堅い場で通したいなら、入口は純粋なリネンではない。

長年、経営者・役員から若手まで幅広いビジネスパーソンの装いに関わってきて、夏に評価を落とす人を何人も見てきた。落としている理由はたいてい暑さそのものではなく、暑さへの対処を間違えていることにある。この記事は、その一点を解くために書いた。生地そのものの見方はスーツは生地で決まるで体系立てているので、あわせて読んでいただきたい。

夏は、装いの乱れが最も表に出る季節である

冬の装いはフランネルで書いたとおり、冬は生地の差が「格」となって表に出る。厚みのある布は落ち感を生み、光を奥へ吸い込んでから静かに返す。良いものを着ている人は、遠目にも温度を持って見える。

夏は逆である。差が「格」ではなく「乱れ」として出る。

理由は単純で、夏の生地は薄く、体に近く、そして汗という外乱にさらされるからだ。薄い布は汗を含むと肌に張りつき、輪郭を失う。座っている時間が長ければ膝が伸び、腕を組めば肘に折り目が残る。冬なら生地の厚みが吸収してくれた小さな崩れが、夏はすべて表面に出てしまう。

だから夏は、装いで抜きん出るのが難しい季節でもある。冬のように「良い生地を着ている人が静かに際立つ」構図が成立しにくい。夏に評価されるのは、際立っている人ではなく、崩れていない人である。

この前提を持って初めて、リネンをどう扱うべきかという問いに正しく答えられる。

リネンの涼しさは、二階建てでできている

光にかざしたネイビーのリネンの平織り。細く均一な糸が直角に交差し、糸のあいだから光が透けて見える

リネンは、亜麻という植物の茎からとる繊維である。人類が使ってきた繊維のなかでも最も古い部類に属し、いまの主な産地はフランス北部・ベルギー・東欧・中国あたりに集まっている。

この生地が涼しく感じられる理由は、二つに分けて理解しておくと迷わなくなる。

一つ目は、触れた瞬間の冷たさである。リネンの繊維は熱をよく伝える。だから肌の熱がすばやく繊維側へ移動し、冷たいと感じる。英国の紳士服専門メディア『パーマネントスタイル』(サイモン・クロンプトン氏主宰)は、2018年の「ザ・ガイド・トゥ・リネン」で、金属が冷たく感じるのと同じ理屈だと説明している。ウールよりはっきり冷たく、綿よりも少し冷たい——この順序が実感と合うはずだ。

二つ目は、風が通ることである。そしてここが誤解されやすいのだが、通気性はリネンという繊維そのものの性質ではない。織り方が生んでいる。『パーマネントスタイル』も、この区別を明確に述べている。リネンの繊維は太く強いため、目を粗く空けて平織りにしても布として成立する。密に詰めなくても壊れないから、粗く織れる。粗く織れるから風が抜ける。順序はこうだ。

加えて、水分をよく吸い、よく手放す。日本麻紡績協会も、綿や絹に比べて吸水と発散に優れると説明している。汗をかいた瞬間に肌へ張りつきにくいのはこのためだ。

つまりリネンの涼しさは、「熱を逃がす繊維」と「風を通す織り」の二階建てでできている。薄さで涼しくしているのではない。この理解が、後で効いてくる。

「麻」と書いてあっても、リネンとは限らない

店頭で「麻100%」の表示を見たとき、それがリネンだと考えている人は多い。しかし日本の表示制度では、そうとは限らない。

家庭用品品質表示法では、「麻」と表示できるのは亜麻(リネン)または苧麻(ちょま/ラミー)を材料とした製品に限られる。2017年4月1日の組成表示の改訂により、亜麻には「麻」「亜麻」「リネン」、苧麻には「麻」「苧麻」「ラミー」という表示が使えるようになった。逆に言えば、「麻」とだけ書かれた表示は、リネンとラミーのどちらであるかを示していない。

この二つは、着心地がはっきり違う。ボーケン品質評価機構の解説によれば、苧麻(ラミー)は天然繊維のなかで最もシャリ感が強く、硬くコシがあり、汗ばんでも肌に密着しない。その一方で、繊維が粗く硬いため肌をちくちくと刺激しやすいことが代表的な短所として挙げられている。亜麻(リネン)は引張強度が大きく、濡れるとむしろ強くなるが、しわがつきやすい。

どちらが優れているという話ではない。シャツの肌ざわりを重視するならこの違いは決定的だし、ジャケットやスーツとして羽織るなら差は小さくなる。知っておくべきなのは、「麻」という一語が二つの別の繊維を指しうるという事実そのものだ。表示を見て「リネン」と書いてあれば亜麻である。書いていなければ、店で尋ねればいい。尋ねられる人になっておくだけで、選べる範囲が変わる。

なお、ヘンプ(大麻)やジュート(黄麻)は同じ改訂で「植物繊維(ヘンプ)」「植物繊維(ジュート)」といった表示になった。これらは「麻」とは表示できない。

しわは、消すものではなく、出方を選ぶもの

2枚のリネン地の比較。左は重いアイリッシュリネンで大きく少ないしわ、右は軽いリネンで細かいしわが全面に出ている

ここが、この記事で最も伝えたい部分である。

リネンのスーツを避ける理由として、ほぼ全員が挙げるのがしわである。そして残念ながら、しわを消す方法は存在しない。理由は繊維の構造にあり、リネンにはウールのような天然の伸縮がない。伸びて戻る性質がないのだから、折れたところは折れたまま残る。加工や混紡で軽減はできても、消すことはできない。

だから、問いを変えなければならない。消せるかではなく、どう出るかである。

しわの出方を決めているのは、生地の重さだ。純粋なリネンのスーツ地は、実務上ほぼ二つの重さに分かれる。『パーマネントスタイル』はこれを、アイルランドの生地メーカーが織る10〜13オンスの帯と、欧州大陸のメーカーが織る8〜9オンスの帯として整理している。前者は糸が太く、織りが密である。後者は細い糸で軽く仕上げてある。

そして、しわの出方が正反対になる。

重いアイリッシュリネンは、しわが大きく、少なく出る。布に腰があるため、折れるときは大きな面で折れる。遠目には陰影のように見え、だらしなさに転びにくい。輪郭も鋭く保たれる。

軽いリネンは、しわが細かく、全面に出る。動いた分だけ表面が細かく波打ち、距離をとって見たときの印象は「くたびれている」に近づく。軽いほうが涼しそうに見えて、実は乱れて見えやすい。私が見てきた範囲でも、ここは取り違えられやすい。

もう一つ、リネンの名誉のために書いておきたいことがある。リネンは繊維が長いため、しわが出ても布としての落ち感を失いにくく、膝が袋のように出にくい。『パーマネントスタイル』は、四、五回着たあとならウールより見栄えがすることさえあると述べている。しわが出るのは事実だが、形が崩れるのとは別の話である。

しわを恐れて軽いものを選ぶと、かえってくたびれて見える。重いものを選べば、しわは陰影になる。これがリネン選びの核心である。

重いリネンが、それでも夏に成立する理由

前の章で挙げた重さを、通常のスーツ地と並べてみてほしい。

スーツは生地で決まるで示したとおり、生地の重さ——目付は、おおむね幅150センチ・長さ1メートルあたりのグラム数で表し、春夏向けの一般的な目安はおよそ200〜250グラムである。ここでアイリッシュリネンの12〜13オンスをグラムに直したくなるが、オンスとグラムの換算は、生地の幅と長さの測り方によって結果が変わり、業界内でも表記が統一されていない。だから重ねない。オンス同士で比べれば足りる。冬のスーツは、フランネルで決まるで挙げた英フォックス・ブラザーズの定番フランネルは14〜15オンスである。夏に着るためのアイリッシュリネンは、冬の生地に迫る重さの領域にある。

矛盾しているように見えるだろうか。していない。

重いリネンは、糸が太いだけである。目が詰まっているわけではない。むしろ太い糸で粗く織るからこそ、しっかりした布でありながら風が抜ける。「軽い=涼しい」という直感は、ここでは正しくない。

同じことは、夏用のウールにも言える。強く撚った糸で粗く織ったフレスコと呼ばれる生地が夏の定番として支持されているのも、薄さではなく織りで涼しさをつくっているからだ。

夏の生地を選ぶとき、確かめるべきは重さそのものではない。光にかざして、目が空いているかどうかである。これは店頭で誰にでもできる。

堅い場で、どこまで着られるのか

さて、最も切実な問いに答える。

日本のオフィスで夏の装いの自由度が一気に広がったのは、2005年に環境省が冷房設定28℃とあわせて夏の軽装を呼びかけたときからである。それから20年が経ち、いまでは夏に上着を脱ぐこと自体が問題になる職場は少ない。

しかし、リネンのスーツはその自由の中心にはいない。正直に申し上げる。金融・法務・官公庁対応のような、装いに保守性が求められる場において、純粋なリネンのフルスーツを主戦力にすることは勧めない。『パーマネントスタイル』も、ネイビーのリネンは有効だが、オフィスでウールの正式なスーツに置き換わるものではないと明言している。

そのうえで、諦める必要もない。段階がある。

第一段階は、ウールとリネンを混ぜた生地である。ウールの復元力がしわを抑え、リネンが通気と清涼感を持ち込む。見え方はウールのスーツに近く、着心地は夏物になる。堅い場で夏を戦うなら、これが最も確実な答えだ。ウールに絹とリネンを混ぜた生地も同じ役割を果たす。

第二段階は、ジャケットだけをリネンにすることである。上下を揃えるより格段に軽く見え、しかも許容されやすい。パンツはウールの、強く撚った糸で織ったものを合わせるとよい。ただし一点、『パーマネントスタイル』も明確に避けるべきだとしているのが、リネンのジャケットにリネンのパンツを別の色で合わせることである。質感が近すぎるため、意図した組み合わせではなく、上下を揃えそこなったように見えてしまう。

第三段階が、純粋なリネンのスーツである。ここまで来るなら、重いアイリッシュリネンを選ぶ。前章のとおり、しわが陰影として出るからだ。着る場面は、社外の会食、リゾート地での商談、夏の私的な集まりが向いている。

線引きの基準は一つに集約できる。その場で自分が最も砕けた装いになるかどうか。なるのなら、まだ早い。ならないのなら、問題はない。装いは自分だけで完結するものではなく、場との釣り合いで決まる——この原則はスーツの本質で述べたとおりである。

色は、ネイビーとトバコから入る

3色のリネン地を並べたもの。左からネイビー、トバコ(葉たばこ色の茶)、ビスケット

リネンと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、白か生成りの上下だろう。そして実際に着てみて、思ったより似合わないと感じる。無理もない。全身のクリーム色は、リネンのなかで最も難度が高い。

現実的な選択肢は、もう少し落ち着いた方向にある。『パーマネントスタイル』が挙げるのは、トバコ(葉たばこのような温かみのある茶)、オリーブ、深い緑、そしてクリームの代わりとしてのオフホワイトやビスケット色である。いずれも日焼けした肌にも、そうでない肌にも馴染む。日本のビジネスの場に置き換えるなら、まず選ぶべきはネイビーとトバコだと考えている。

ネイビーは、リネンであっても誠実さを損なわない色である。ただし前章のとおり、これは「ウールのネイビースーツの代わり」ではない。夏の別の一着として持つものだ。

トバコは、日本ではまだ着ている人が少ない。だからこそ効く。茶系は肌の色に近く、顔映りが穏やかになり、かつネイビーやグレーの海の中では静かに目立つ。

柄は入れなくていい。リネンの表面には、繊維の太さのむらが節(スラブ)となって現れ、それ自体がすでに十分な表情を持っている。そこへ柄を足すと過剰になる。無地でいい。

足元は、艶を抑えた革の靴が釣り合う。夏だからと軽い色に振るより、紐を通す部分が甲に縫い込まれた内羽根の、落ち着いた一足を合わせたほうが、上半身の軽さが引き締まる。シャツは、白の上質な一枚がやはり最も強い。

手入れは、ウールと逆になる

リネンジャケットの襟元のクローズアップ。折り返しの稜線に沿って、繊維が繰り返し折られる場所がわかる

意外に思われるかもしれないが、リネンの手入れはウールの手入れと発想が逆になる。

ウールの基本はブラッシングである。起毛した表面が埃を抱き、埃が摩擦を呼び、摩擦が毛玉を生むからだ。フランネルのような生地では、これが寿命を大きく左右する。

リネンには、それがほとんど要らない。表面が滑らかで毛羽立たないため、糸くずや埃を拾わない。ブラシで毎回整える必要のある生地ではない。

摩耗にも強い。肘や腰が擦り切れてくることは、まず起きない。では何が寿命を決めるのか。折り目である。『パーマネントスタイル』は、リネンが傷むのは同じ場所で繰り返し折られて繊維が割れる箇所であり、その典型は襟の上端だと指摘している。私が見てきた範囲でも一致する。他の部分はまだ十分に使えるのに、そこだけが先に来る。

したがって、やるべきことは三つに絞られる。連日着ないこと(一日着たら休ませる。これはどの生地でも共通する)、同じ折り方で長期間保管しないこと、そしてシーズン中に一度、プレスを入れることである。しわを取り切る必要はない。折り目の位置をいったん解消してやれば、それでいい。

自宅での丸洗いは、スーツやジャケットについては勧めない。芯地と縫製の構造が水に耐えるようにできていないからだ。生地としてのリネンが水に強いことと、仕立てられた一着が水に強いことは、別の話である。

最初の一着は、これを選ぶ

知識を並べても、選べなければ意味がない。一択で示す。

ネイビー無地の、ウールリネン。目付は250グラム前後。

これが、夏の一着として最も外れがない組み合わせである。堅い場でも通り、しわが暴れず、上着を脱いだときの見え方も保たれる。夏の主戦力として、この一着がまず要る。

そのうえで、リネンという素材そのものを楽しむのは二着目からにしていただきたい。二着目は、アイリッシュリネンの12オンス前後、無地、トバコ。ここまで来れば、しわは欠点ではなく陰影として働き、夏の装いに他の生地では出せない深さが加わる。

そして、この順序は守ったほうがいい。スーツは生地で決まるで書いたとおり、まずはダークネイビーとチャコールグレーの無地——ウールの主戦力が二着。その次に季節の一着が来る。順序を守れば、リネンは装いの幅を広げる。守らなければ、着る機会を探す一着になる。

まとめ:リネンは、しわごと引き受ける生地である

リネンは、完璧に見せてくれる生地ではない。着れば必ずしわが出る。それは仕様であって、欠陥ではない。

見るべき順序は決まっている。まず涼しさが薄さではなく織りから来ていることを理解し、「麻」の表示が何を指しているかを確かめ、重さでしわの出方を選び、堅い場ではウールリネンから入る。色はネイビーとトバコ、柄は足さない。手入れは折り目だけを気にすればいい。

夏に評価を落とす人と、夏でも崩れない人。その差は体質でも我慢強さでもなく、生地に何を期待するかを知っているかどうかにすぎない。しわを消そうとする人は消耗し、しわを引き受けた人は涼しくいられる。

纏う自信が、勝負を制する。

よくある質問

リネンのスーツのメリットは何ですか?

涼しさの質が他の素材と違う点です。リネンの繊維は熱をよく伝えるため肌に触れた瞬間に冷たく感じ、繊維が太く強いことから目を粗く織れるため風がよく抜けます。さらに汗をよく吸い、よく発散するので、汗をかいた瞬間に肌へ張りつきにくいという利点もあります。

リネンのスーツはしわになりやすいですか?

なります。リネンにはウールのような天然の伸縮がないため、しわを消す方法はありません。ただし出方は選べます。重いアイリッシュリネンは大きく少ないしわが陰影のように出て、軽いリネンは細かいしわが全面に出ます。端正に見せたい場合は重いものを選ぶのが有効です。

リネンのスーツの寿命はどれくらいですか?

使い方次第ですが、摩耗で寿命が来る生地ではありません。リネンは強く、肘や腰が擦り切れることはまず起きません。傷むのは同じ場所で繰り返し折られる箇所で、襟の上端などで繊維が割れて現れます。連日着用を避け、同じ折り方で長期保管しないことが最も効きます。

「麻」と「リネン」は同じものですか?

同じとは限りません。家庭用品品質表示法では「麻」と表示できるのは亜麻(リネン)と苧麻(ラミー)に限られており、「麻」という表示だけではどちらか判別できません。2017年4月1日の改訂で「リネン」「ラミー」という表示も使えるようになったため、表示を確認するか店頭で尋ねるのが確実です。

結婚式にリネンのスーツを着てもよいですか?

式の性格によります。昼のガーデンウェディングやリゾート地での挙式で「平服」の案内がある場合には選択肢になりますが、格式のある式や親族として参列する場合には向きません。リネンは表面にしわと節が出るぶん、ウールの正装より砕けて見えるためです。迷う場合は選ばないほうが安全です。

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Author

Shogo Otomo

グローバル企業の上級幹部として世界基準の交渉・意思決定の場に立ちながら、自らも会社を経営し、経営判断の場に身を置く。国際的なイメージコンサルタント業界団体の知識体系を学び、長年にわたり経営者・役員・管理職・若手ビジネスパーソンの装いを支援。クラシコイタリアと縁の深いラグジュアリー・セレクトショップ出身。ブランドより素材・仕立てを重視する。